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会計・監査ナレッジ
Vol.
1
伊藤 肇
デバイス組込型ソフトウェアの販売における収益認識基準の履行義務の識別に関する考察
史彩監査法人
代表社員 /公認会計士
伊藤 肇

2022年3月期決算の会社より、収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号、以下「収益認識会計基準」)が適用となることは周知のとおりですが、デバイス組込型ソフトウェアの販売、あるいはデバイスと一体となったサブスクリプション型ビジネスモデルの収益認識に関しては、契約形態や取引実体が多岐にわたる一方、収益認識会計基準あるいは収益認識に関する会計基準の適用指針(企業会計基準適用指針第30号、以下「適用指針」)では、多用な取引実態に応じて具体的な取扱いが網羅的に記載されているわけではないことから、個々のケースの実態に応じて適切な会計処理を監査法人と検討していくことが必要になっています。

ここでは、一定の設例を設けて、デバイス組込型ソフトウェアの販売における履行義務の識別を考察します。なお、文中の意見に関する部分は筆者の私見であり、ASBJの見解を示すものではないことをあらかじめ申し添えます。

【設例1】デバイスとAIを用いたサービスのセット販売

解約可能な月額課金のソフトウェア・ライセンス使用許諾契約の場合

前提条件

  1. AIを用いたアグリテック・サービスを提供するA社は、B社(顧客)に対して同サービス専用のデバイスと解約可能な月額課金のサブスクリプション・サービス提供契約(以下、サブスク)を締結した。
  2. 新規の顧客に対してはデバイスとサブスクをセットで販売しており、まれにサブスクの継続的取引をしている顧客に対して、顧客からの要望によりのサブスクの新規サービスのみの販売を行うことがある。
  3. デバイスは契約時点で引き渡し、代金を回収する。サービスの代金は毎月請求し、回収される。
  4. デバイスの物理的・経済的耐用年数は5年間と想定している。
  5. B社は当該契約をもって追加負担することなくサービス全般を利用することができる。

【財又はサービスが別個のものであるかの判定】

A社の提供する財又はサービスは、セットでの販売が前提となっており、専用のデバイスがないとサブスクを利用できないため、顧客は各財またはサービス単独で便益を得られるものではないと判断した。 次に、デバイスはこのビジネス専用に開発されたものであり、かつ、サブスクを利用するためにはこのデバイスが必要不可欠であるため、容易に入手できる他の資源と組み合わせることで、その財又はサービスから便益を得られるものではないと判断した。 したがって、基準32項、及び127項に基づいて、デバイスの販売とサブスクの複数の契約を一体として会計処理することになると思われる。

【会計処理】

A社の場合、サブスクを解約可能な月額課金としているため、月額課金の開始月にデバイスの売上とサブスクの月額課金の売上が計上されることになると判断する。 仮に、B社がサブスク利用初月で解約した場合でも、デバイスの在庫リスクはB社に移転しており、収益は実現していると判断される。 次に、サブスクの売上は原則として、月額課金に応じて日割りで売上計上されることになると判断される。その場合、サブスク利用開始が月の途中であり、契約期間が決算月の月中に開始し決算翌月の月中終了する場合には、デバイスとサブスクの売上を日割りで計上することが合理的と考えられるので、監査法人と事前に検討しておくことが適切であると思われる。

【設例2】デバイスとAIを用いたサービスのセット販売

解約不能なリース契約の場合

前提条件

  1. AIを用いたアグリテック・サービスを提供するA社は、B社(顧客)に対して同サービス専用のデバイスとソフトウェア利用許諾契約を5年のファイナンスリース取引として締結した。
  2. 新規の顧客に対してはデバイスとサブスクをセットで販売しており、まれにサブスクの継続的取引をしている顧客に対して、顧客からの要望によりのサブスクの新規サービスのみの販売を行うことがある。
  3. デバイスは契約時点で引き渡し、デバイスとソフトウェア利用許諾期間5年間分のリース代金全額を回収する。
  4. デバイスの物理的・経済的耐用年数は5年間と想定している。
  5. B社は当該契約をもって本ソフトウェア及び付帯する関連サービス(以下、ソフトウェア等)を追加負担することなく5年間にわたり利用することができる。

【財又はサービスが別個のものであるかの判定】

A社の提供する財又はサービスは、セットでの販売が前提となっており、専用のデバイスがないとソフトウェアなどを利用できないため、顧客は各財またはサービス単独で便益を得られるものではないと判断した。 次に、デバイスはこのビジネス専用に開発されたものであり、かつ、ソフトウェアなどを利用するためにはこのデバイスが必要不可欠であるため、容易に入手できる他の資源と組み合わせることで、その財又はサービスから便益を得られるものではないと判断した。 したがって、基準32項、及び127項に基づいて、デバイスの販売とソフトウェアなどの複数の契約を一体として会計処理をすることになると思われる。

【会計処理】

A社の場合、ソフトウェアなどを5年間のライセンス契約として提供しているため、ソフトウェアのライセンス提供期間にわたってデバイスの売上とソフトウェアのライセンス収入の売上が計上されることになると判断する。 当該会計処理は、これまで、広く会計実務とされてきた収益認識の方法と大きく異なる場合が想定されるので、監査法人と事前に検討しておくことが適切であると思われる。

伊藤 肇
伊藤 肇
東京都出身。中央大学商学部卒業。数多くのIT企業、メーカー、商社、飲食業、ヘルスケア、人材サービス、不動産、建設、金融業の上場企業の監査に従事する傍ら、あずさ監査法人では企業公開本部に所属し幅広くベンチャー企業のIPO監査を担当する。その他にもM&Aの財務デューデリジェンスやIFRS、J-SOX等に関する財務アドバイザリーなどにも多数従事。

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