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IPOに関するQ&A
Vol.
1
伊藤 肇
IPO時の直前々期(N-2期)と直前期(N-1期)の会計方針の継続性  ~ 収益認識基準の導入時期に関する考察 ~
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史彩監査法人
代表社員 /公認会計士
伊藤 肇

新規株式公開(以下「IPO」)の財務諸表においては、過年度遡及会計基準の取扱い、中でも「比較情報」の取扱いが特殊となっております。昨今では収益認識会計基準の適用時期に関して、特に留意が必要となっています。

「比較情報」とは、当期財務諸表に記載された数値等に対応する前期の数値などのことであり、当期財務諸表の一部を構成する位置付けの情報をいいます【財務諸表等規則第6条参照】。 上場会社の場合は、過年度遡及会計基準の適用により、有価証券報告書上は、従来開示されていた前期の財務諸表は開示されないこととなり、代わりに今期の財務諸表の「比較情報」として当期の財務諸表に対応した前期の数値などが開示されることとなっています。

ところが、IPO会社が最初に財務局に提出する有価証券届出書(第二号の四様式)、同じく新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)では、IPO時の「比較情報」の開示は不要となりますが、前期の財務諸表は今期の財務諸表の会計基準に従って作成することが求められています。

つまり、「比較情報」を開示せずに前期の財務諸表を開示するとはいっても、今期の財務諸表作成の際に会計方針の変更や表示方法の変更があった際には、前期の財務諸表も同じ前提で遡及修正する必要があるため、実質的には上場会社の「比較情報」の取扱いと同様となり、N-2期とN-1期の会計方針の継続性が求められていることになります。

なお、ハイライト情報での取扱いについては開示府令ガイドライン5-12-2において、注記を付して遡及修正後の数値を記載することができる旨、規定されています。

仮にN-1期の決算において、会計基準、会計方針の変更や表示方法の変更が予定されている場合、特に収益認識基準の適用時期に関しては、N-2期の決算書をどのように開示するか、監査法人や主幹事証券会社などときちんと議論しておく必要があると考えます。

以下、参考となる会計基準上の取扱いです。

<連結財務諸表の取扱い>

  • 最近2連結会計年度に係る連結財務諸表(比較情報を除く)について、最近連結会計年度の前連結会計年度分を左側に、最近連結会計年度分を右側に配列して記載する。【開示府令 第二号様式(記載上の注意)60(a)】
  • 前連結会計年度(直前々期)に係る連結財務諸表を届出書に記載する場合は、当連結会計年度(直前期)に係る連結財務諸表の会計方針等に従い、その場合の当連結会計年度及び前連結会計年度の連結財務諸表は比較情報を含めないで作成する。 【連結財務諸表規則 附則第2項、第3項】

<財務諸表の取扱い>

  • 最近2事業年度に係る財務諸表(比較情報を除く)について、最近事業年度の前事業年度分を左側に、最近事業年度分を右側に配列して記載する。【開示府令 第二号様式(記載上の注意)67(a)】
  • 前事業年度(直前々期)に係る財務諸表を届出書に記載する場合は、当事業年度(直前期)に係る財務諸表の会計方針等に従い、その場合の当事業年度及び前事業年度の財務諸表は比較情報を含めないで作成する。【財務諸表等規則 附則第3項、第4項】

<監査報告書の取扱い>

  • 届出書に含まれる財務諸表(第1号)、連結財務諸表(第4号)のうち、最近事業年度(直前期)及びその直前事業年度(直前々期)を監査対象とする。【監査証明府令 第1条第1号、第4号】
伊藤 肇
伊藤 肇
東京都出身。中央大学商学部卒業。数多くのIT企業、メーカー、商社、飲食業、ヘルスケア、人材サービス、不動産、建設、金融業の上場企業の監査に従事する傍ら、あずさ監査法人では企業公開本部に所属し幅広くベンチャー企業のIPO監査を担当する。その他にもM&Aの財務デューデリジェンスやIFRS、J-SOX等に関する財務アドバイザリーなどにも多数従事。

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