キャンセル
会計・監査ナレッジ
Vol.
10
上場審査と監査役監査
南富士有限責任監査法人
パートナー / 公認会計士
矢冨 健太朗

はじめに

 監査役は、取締役と並んで会社の役員を構成し、取締役の職務執行の監査・監督を行うという非常に重要な役割を担っています。監査役監査の実施状況については、証券取引所の上場審査においても重要項目として必ず確認が行われます。監査役監査が不十分であることに起因し、上場審査部門から難色を示され、上場が遅延する、もしくは頓挫した事例も漏れ聞こえてきます。
東京証券取引所のグロース市場における実質審査基準には、企業のコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の有効性という項目があり、コーポレート・ガバナンス及び内部管理体制が企業の規模や成熟度に応じて整備され、適切に機能していることが求められます。一方で、この実質審査基準や東証か公表している事前チェックリスト等は、概括的な記載となっており、上場を目指す企業が、どのような対応をとるべきかという点について、外から見えにくい状況にもあります。そこで、本稿では、以下のような項目を挙げ、監査役監査の実施上、上場審査の観点からの留意点等について解説していきます。

  1. 監査役会の開催
  2. 取締役会への出席
  3. 内部監査人や会計監査人との連携
  4. 監査役監査計画の立案
  5. 監査手続の実施と監査結果等のとりまとめ
  6. 監査指摘事項のとりまとめと改善状況のモニタリング

1. 監査役会の開催

 まず、最も基本的な事項として、監査役会が適切に開催され、必要な決議が行われ報告事項が共有されているかという点が挙げられます。上場を想定した場合、監査役を3名以上選任し、監査役会を組成し、監査役会を開催する必要があります。監査役会の開催頻度は、月次での開催を基本とし、必要に応じて臨時の監査役会を実施することが想定されます。月次の監査役会では、監査計画に基づく監査の実施状況を報告、確認しつつ、必要事項について決議を行っていくこととなります。この点、上場審査の過程において、監査役会議事録の提出が求められます。審査上は、議事録の閲覧を通じて開催頻度、必要な報告、決議が行われているかなどが確認されます。

2.取締役会への出席

 監査役は取締役の職務執行の監査を行うことを職務としている点からも、取締役会へ出席し意見を陳述することは監査役監査の最も基本的な事項となり、上場審査上も基本的な確認事項として取り扱われます。審査上、監査役の取締役会の出席状況は、取締役会議事録の閲覧により確認され、やむを得ない事情がある場合を除き、全監査役の出席率が100%となっている状況が期待されます。また、上場審査の過程で、監査役は上場審査担当者との面談を求められます。監査役面談に際して、取締役会の決議事項含む経営における重要事項への見解や、監査の実施状況についての説明を求められることになります。そのため、上場準備段階においては、このような状況も念頭に置きつつ、日々の監査を行うことが必要となります。

3.内部監査人や会計監査人との連携

 監査役、内部監査人、会計監査人は、それぞれの位置付けは異なるものの、企業活動に対する監査を実施する機能として、重要な役割を担っています。監査役、内部監査人、会計監査人間の連携は、三様監査とも称され、相互の連携が期待されています。上場審査上も、これらの3者の連携状況の確認が行われます。上場審査からのアプローチとしては、まず三者の面談が、通常、四半期の頻度で実施されているかという点が確認されます。また、面談の議事録等の提出を求められ、面談の内容についても確認が行われます。監査役の視点からは、上記の三者面談に機会に限定されることなく、内部監査人と常日頃から意思疎通を行い、内部監査計画の進捗、実施した内部監査手続からの検出事項、検出事項に対する改善対応状況の把握を行うことが重要です。また、会計監査人との関係においても、会計監査人からの説明や質疑応答を通じて、監査計画を理解し、会計監査人から発行されるショートレビュー結果報告書や、要改善事項・気づき事項に関する文書・コメント等から会計監査人の課題意識を把握することが重要です。なお、会計監査人の指摘事項やこれらに対する改善状況等を踏まえて、監査役自らが、取締役を含む執行側に対して監査上の提言を行うことも考えられます。

4.監査役監査計画の立案

 監査役監査計画については、様々な様式がありますが、計画上、一般にいつ、だれが、どのような監査手続を実施するかが記述されます。上場審査の観点からは、以下のような項目が盛り込まれた監査計画が期待されます。

監査計画の記載内容

・監査役監査の基本方針
・監査手続
・重点監査項目(過年度の指摘事項を含む)
・各監査役の監査業務の分担
・監査実施スケジュール(年間スケジュール)

監査計画は、常勤監査役を中心に各監査役が主導して立案することとなりますが、一定程度、主幹事証券会社の公開引受部門の助言を受けることもできます。公開引受部門のコンサルテーションをうまく利用しつつ、上場審査の目線を監査計画に取り込んでいくことも考えられます。

5.監査手続の実施と監査結果等のとりまとめ

 監査手続は、日々の経営環境の変化に対応して臨機応変に実施されるべき性質があるとも言えますが、一方で、上場審査との兼ね合いでは、監査計画において企図され手続を計画された時期に漏れなく実施することが求められます 。また、実施した監査手続の結果やそこから導かれる結論、手続の結果検出された指摘事項について、監査調書というかたちでの文書化が求められます。この点、上場審査では、監査計画や監査調書の閲覧を通じて、監査計画に記載された手続が所定の時期に漏れなく実施され、その結果等が監査調書として文書化されているかが確認されます。したがって、上場準備段階においては、より文書化を意識して監査を実施していく必要がある点に留意が必要です。

6.監査指摘事項のとりまとめと改善状況のモニタリング

 監査手続の過程で検出された事項は、監査指摘事項一覧などのかたちで文書化され、該当部署・責任者とのコミュニケーションを経て是正・改善状況をモニタリングしていくことになります。一般に監査指摘事項一覧には、以下のような内容が盛り込まれます。

監査指摘事項一覧の記載内容

・指摘事項の内容
・担当部署からの改善案
・改善時期
・検出・指摘事項の顛末(対応完了、未了、翌期以降に対応を繰越など)

 上場審査を勘案すると、監査指摘事項や課題事項はできるだけ少ない方がよいのではないかという考え方もできます。一方で、上場審査の対象となる企業は、経営管理体制の構築途上である場合も多く、監査役からの指摘がほとんどない状況は想定しにくく、上場審査担当者もそのような状況を理解しています。むしろ、上場審査担当者は、監査役監査の指摘事項が少なすぎないかという視点を持っています。上場審査上、監査摘事項が極端に少なかった場合、監査手続の十分性に疑義が向けられることもあります。逆に監査指摘事項が多く出されている場合であっても、改善やモニタリングが適切に行われている状況が確認できれば、審査上は、監査役監査が機能しているとして評価されます。そのため、上場審査の観点からは、監査を通じて十分かつ必要な指摘事項が示され、担当部署の改善案や改善予定時期が明確化され、監査役により改善確認や改善活動のモニタリングが適切に行われていることが重要となります。

矢冨 健太朗
あずさ監査法人(現有限責任あずさ監査法人)に入所し、上場会社等の会計監査業務に携わる。その後アドバイザリー部門へ異動し、M&A関連業務、事業再生業務、会計アドバイザリー業務などに従事。タイ、フィリピンへの海外駐在を経て有限責任あずさ監査法人を退所。現在は、上場会社や上場準備会社の社外取締役や監査役に就任するとともに、南富士有限責任監査法人のパートナーとして業務を行っている。

この記事をシェアする