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昨今、大学発のベンチャー企業の発展には目を見張るものがあります。経済産業省が2021年5月に取りまとめた大学発ベンチャー実態等調査の結果によりますと、2020年度調査において存在が確認された大学発ベンチャー企業は2,905社と2019年より339社増加し、企業数及び増加数ともに過去最高を記録したとのことです。また、それら企業に対するアンケートでは、出口戦略としては30%を超える企業がIPOを考えているとの結果が出ています。実際、2021年1月時点において上場している大学発ベンチャー企業は合計66社、その時価総額は 3兆630億円に上る状況となっています。
(ご参考)経済産業省「大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました」
https://www.meti.go.jp/press/2021/05/20210517004/20210517004.html
大学発ベンチャー企業を他の一般企業と比較した場合、例えば以下の様な特徴がみられます。
上記の特徴は、IPOの実質審査の場面において、以下の様な論点を生じさせます。
上述のとおり、他者が保有する知的財産権を契約により利用して主要な事業が営まれている場合には、当該契約が解除された場合には事業の継続が困難になるリスクが想定されることから、上場に際しては、原則として、当該知的財産権を大学等の保有先から譲り受け、自社で保有することが求められます。しかし一方、大学においては、その公的な性格からその研究成果は社会への還元が求められ、大学の立場としては、譲渡後において当該知的財産権等が活用されないとか、大学が想定していない目的に利用されてしまうといった懸念から、知的財産権の譲渡には消極的にならざるを得ないといった事情も実務的には想定されます。
そうした事情で申請会社への知的財産権の譲渡が困難な場合には、当該知的財産権の実施にかかる申請会社の権利の保護が上場後においても大学との契約により実質的に担保されていることを、以下のポイントを踏まえ合理的に説明していくことが求められます。
また、共同研究における契約については、今後の研究開発により発生する費用や成果の帰属に関する事項について、当該共同研究契約等で明確化されていることが求められます。
そして、これら共同研究に関する契約内容や知的財産権にかかる契約内容等は、投資家の投資判断に重要な影響を与える可能性が高い情報であると考えられることから、事前に大学側との間の守秘義務契約を解除した上で、例えば以下の様な情報を上場後も継続的に、かつ出来るだけ数値を用いて具体的に開示していくことが望まれます。
a 契約名
b 契約先名
c 契約期間
(a) 契約締結日
(b)契約終了の契機
d 契約内容
(a)対象技術の詳細
(b)実施許諾の範囲
e 実施料の支払条件
(a)契約一時金
(b)マイルストーン・ペイメント
(c)ランニングロイヤリティ
(d)その他
f 実施権の再許諾に伴う収入配分に関わる条件
g 契約解除の条件
h その他、投資判断に重要な影響を及ぼすと考えられる事項
申請会社の役職員が大学の教授等を兼任している場合には、当該役職員の大学での活動が、申請会社の役職員としての業務の障害になっていないことを合理的に説明することが求められます。なお、大学の教授等の兼任について、所属している大学側の規則等を遵守していることも当然に求められます。
また、申請会社と大学との間の利益相反取引に関する内部管理体制が、申請会社及び大学側双方において適切に構築されていることが求められます。例えば、申請会社と申請会社の役職員を兼任している大学教授等が所属する研究室とが共同研究を行っている場合であれば、当該教授等の発明に関する権利の帰属やそこから生み出される収益の帰属割合、共同研究費の負担割合の考え方などが明確化されており、特定の者の利益を優先する様な行為を防止する体制がしっかりと構築されていることが必要となります。
インサイダー取引の防止の観点からは、インサイダー取引についての説明や研修を大学や教授等も対象に行うといった対応が望まれます。