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IPOに関するQ&A
Vol.
12
本橋 義郎
TOKYO PRO Marketの特徴と期待役割
史彩監査法人
公認会計士
本橋 義郎

1 TOKYO PRO Marketとは

TOKYO PRO Market(以下TPM)とは東京証券取引所(以下、東証)が運営する株式市場の一つであり、概要については、以下東証のHPをご参照ください。

TPMの母体となるTOKYO AIM は、2008年の改正金融商品取引法により導入された「プロ向け市場制度」に基づき、株式会社東京証券取引所グループとロンドン証券取引所の共同出資により創設された会社TOKYO AIM取引所による運営マーケットとして、2009年6月に開設されました。
当マーケットは、日本やアジアにおける成長力のある企業に新たな資金調達の場と他市場にはないメリットを提供すること、国内外のプロ投資家に新たな投資機会を提供すること、日本の金融市場の活性化ならびに国際化を図ることを目的とし、ロンドン証券取引所の運営するロンドンAIMにおけるNomad制度を参考として「J-Adviser 制度」を採用するなど、機動性・柔軟性に富む市場運営の実現を目指しており、2012年7月からはTPMとして、TOKYO AIMの市場コンセプトを継承し、東京証券取引所が市場運営を行っています。(出典:東証HP)

2 TPMと東証他市場との相違点

以下TPMと東証他市場の比較表の通り、TPMの上場基準は柔軟な上場基準となっています。TPMの特徴を以下3点に整理しました。

  1. 株主数、流通株式数などの上場基準における形式基準が要求されない
  2. コーポレート・ガバナンス体制では柔軟な機関設計が容認されている
  3. 決算、開示体制においては上場後の四半期決算の開示は任意である、また上場前の監査期間は1期間、そして内部統制報告制度(JSOX)への対応も任意である

3 上場のメリット、デメリット

いわゆる上場企業になることによるメリットとしては、他市場でも想定される効果が得られます。

① 信用力、知名度の向上

上場企業という格付けを得ることにより、営業面では取引先の拡大という直接的なメリットがまず挙げられます。また、財務面では金融機関からの融資などでも有利になることが多いです。さらには、人材採用でも優秀な人材を確保しやすくなるといった効果が想定されます。信用力、知名度の向上はM&Aの推進においても有利に働く可能性があります。

② 従業員の士気向上

上場会社で働いていることに誇りを感じ、従業員のモチベーションが高まることは、会社全体の生産性の向上にも繋がります。上場企業の従業員というステータスは、住宅などのローンを組むときに優遇を受けられるという様な側面もあります。

③ 組織的経営

上場会社は、コーポレート・ガバナンスや内部管理体制を構築する必要があります。上場準備の過程で、従前の経営管理体制の見直しを行い、組織的な経営管理体制を整備することができます。

また、他市場と比較したTPM特有のメリットを以下に挙げます。

④ 経営の支配権(オーナーシップ)を維持したままの上場

上述2 「TPMと東証他市場との相違点」の通り、株主数、流通株式数などの形式基準がないことから、上場時に株式を手放す必要もないので、株主構成を変更する必要がありません。よって、経営の支配権(オーナーシップ)を維持したままの上場が可能です。

⑤ 上場コスト

上述2 「TPMと東証他市場との相違点」の通り、TPM上場申請において監査法人による監査期間は1年になります。一般市場では2年の監査期間が必要なので、一般市場よりも早く上場することができます。準備期間が短いことは、上場コストの抑制にもつながります。上場後においても、四半期決算の開示、JSOXの対応は任意であるため、上場の維持コストにおいても抑制が可能となります。

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なお、TPMでは特定の投資家のみ(適格機関投資家、プロ投資家(純資産の合計額/金融資産の合計額が3億円以上と見込まれ、1年以上の取引経験を有すること)など)株式の購入が認められ、一般投資家が参加できません。以上より、資金調達による効果は他市場と比較して限定的であるといわれています。上述のメリット④の裏返しの内容にもなりますが、こちらをデメリットとして挙げさせていただきます。

4 まとめ

以上の通り、オーナーシップの維持と知名度・信用力向上の双方を手にしながら成長するためのマーケットとしても注目されていますが、さらにはマザーズやJASDAQ(新市場区分ではグロース市場)への上場のためのスタート台、エントリー市場としての役割も期待されており、ステップアップ上場の実績も報告され始めてきています。今後、TPMが果たす役割も増大するものと見込まれています。

また、TPM上場企業の内訳は2021年時点で地方企業が約7割を占めます。地方企業が上場企業としてより成長し、雇用や、納税等を通じて、地方経済に貢献するという観点から、マクロ経済的にも、地域経済の活性化を促進させる機能も秘めており、今後のTPM動向には注目する必要があると考えます。

本橋 義郎
本橋 義郎
東京都出身。2007年有限責任監査法人トーマツに入所し、トータルサービス1部に所属した。2022年史彩監査法人に入所。
上場企業の監査、上場準備企業の監査業務に携わり、製造業、商社、建設業、IT、サービス業など様々な業種の監査を担当。監査業務以外に、決算体制構築やJSOX導入などIPO関連の支援業務をはじめ、事業計画策定支援、収益認識に関する会計基準の導入等のアドバイザリー業務に従事。

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