© 2021 次世代監査法人IPOフォーラム
All Rights Reserved.
上場準備に際してはグループガバナンスの構築が重要な審査項目となりますが、プライム市場上場会社で、特に海外子会社による不正が発覚し多額の損失を計上したケースがあります。例えば、総合生活企業では、中国企業を子会社化した直後に、簿外債務を隠蔽していたことが発覚したり、大手ハウスメーカーでも、中国企業との合弁企業において、多額の使途不明金が発覚したりするケースがありました。
金額が大きく目立つ不正は海外子会社となりますが、上場審査においては、企業グループとしてのガバナンス体制及び内部管理体制の構築が求められますので、上場審査上、必要な管理体制の整備についてご説明いたします。
上場審査では、管理体制の前に、子会社の役割及び出資比率について確認が求められます。子会社に対する出資構成は原則100%が求められ、100%でない場合には、その他の出資者の経緯及び理由を確認します(100%子会社が望ましいと考えられていますが、NGというものではありません)。業績の悪化している子会社を連結対象から外すことを目的とすることや、子会社の出資者の中に、親会社役員等が含まれており、利益流出の可能性が認められる場合には、出資構成の改善を求められる可能性があります。例えば、親会社役員等が一部出資する子会社において、保険代理店業を営み、申請会社と取引するケースでは、利益の流出が認められますので、100%子会社にするか子会社の整理を求められる可能性があります。
さらに、子会社において、親会社と関連のない事業や公序良俗への懸念など上場審査上においてネガティブな事業を展開している場合には、法律上問題ないビジネスであっても、事業廃止や売却などの整理を求められるケースもあるようです。
子会社において、必ずしも取締役会・監査役会を設置する必要はありませんが、親会社役員や管理部担当役員等を子会社の取締役もしくは監査役と兼務させて、一定の監督機能を持たせることが必要と考えます。特に海外子会社の場合には、親会社からの目が行き届かないため、現地のメンバーや本社からの駐在員に任せきりにすると、国内子会社よりも不正の発生可能性が高くなります。これを防止するため、一定期間で経理マネージャーを交代させる方法も考えられます。
また、創薬などを行っている海外企業が、株式移転や三角合併の方式で日本法人を設立し、短期間で上場するケースも見受けられます。その場合、親会社で調達した資金が子会社への出資金となり、そこから海外子会社での事業や研究開発費等に使用されることになります。親会社側ではこの資金の使用状況について、モニタリングできる体制が必要となります。
親会社は子会社の月次決算を報告させ、連結ベースでの予実管理を15日程度で取締役会で報告することが必要です。そのため、ある程度規模の大きい子会社であれば、独立した経理体制を構築するケースも考えられます。
なお、1.であげた総合生活企業の中国子会社においては、子会社化前から会計情報へのアクセスが制限され、一部において金融機関の残高証明を入手できないなどの不正の疑義があったものの、経営方針としてグローバル化を進めるという方針のもと子会社化した結果、間もなくして不正が発覚し、累計数百億円の損失を計上し、訂正報告書を提出する対応となりました。したがいまして、決算体制においても親会社から会計システムにアクセスできるようにするなど牽制機能を働かせることが重要となってきます。
②とも関連しますが、海外子会社の場合、会計処理としては日本基準、米国基準、国際会計基準(IFRS)を採用することが必要となります。海外の未上場企業の場合、通常は現地のローカル基準で会計処理を行っていますので、GAAP修正が必要になります。なお、海外子会社のローカル基準からIFRS等へのGAAP修正は、グローバル会計事務所へのアウトソーシング等を利用するケースが考えられますが、その場合でも、海外法人及び親会社に米国基準やIFRSをある程度理解している経理部員の採用が必要と考えます。
100%子会社との取引であれば利益流出の可能性もないですし、連結財務諸表を作成するに際して、相殺消去の対象となります。一方で、一定金額以上(例えば、売上高、売上原価又は販売費及び一般管理費に係る取引であれば、それぞれ10%以上)は単体の「関連当事者間取引」の注記の対象に含まれます。したがいまして、たとえ100%子会社との取引であっても、取引条件については第三者との取引条件と全く同様にする必要はないものの、第三者との取引条件に基づいた合理的な条件にすることが必要であり、会計監査の対象にも含まれます。
なお、子会社との取引において、国税庁から課税所得流出を理由に重加算税を課せられたケースにおいて、当局と係争中ではあったものの申請会社が敗訴となった場合の金額が重要であったことから、申請を受理されなかったケースもあるようです。特に、海外子会社との取引については、移転価格税制も考慮し慎重に取引条件を定めることが必要となります。
上場審査において、原則、すべての事業所及び子会社を対象とすることが求められます。また、内部監査で指摘された改善事項については、フォローアップ監査において改善状況を確認することが必要となります。上述の総合生活企業においては、独立したグローバル監査部門を設置していたものの、実態としては数名しか要員がおらず機能していませんでした。子会社の重要性により内部監査の濃淡はありますが、実質的かつ慎重に実施することが必要となります。
また、過去の事例としては、内部監査の対象範囲を「関係会社を含めてすべての部門の会計監査及び業務監査」としⅡの部にもその旨を記載しながら、実際には前年度のフォローアップ監査に対象を絞っていたことなどを理由に審査が途中でストップした事例もあるようです。
上場審査においては上場後に内部統制報告書を提出できる体制が整っているかどうかを確認されます。内部統制評価の範囲は連結売上高95%以上が対象になりますので、重要性の低い子会社を除いては対象に含まれます。親会社内のプロセスについてはグリップが効いているので整備しやすいですが、子会社(特に買収した子会社)においては、リソース不足やカルチャーの違いなどからも整備のハードルが高いと考えます。子会社の全社統制においては、通常不足しているものが多数ありますので、プロジェクトチームを構築し、遅くとも直前前期のうちから整備を進めることが望ましいと考えます。
PMI(Post Merger Integration)とは、M&A成立後の統合プロセスを言い、親会社の経営理念を浸透させたり、会計システムやERPを整備したり、人事制度を揃えたりといったプロセスになります。表面上、規程を揃えたり、会計システム・会計方針を揃えたりというところは難しくないかもしれませんが、実態として、それらを買収した企業に周知・理解させ、運用していくには時間がかかります。また、上場審査上、直前前期以降に子会社を買収することが否定されるものではありませんが、PMIに時間がかかることや、仮に審査において子会社の内部統制の不備が検出された場合には、子会社の規模にかかわらず、審査が止まってしまう可能性が高いです。過去には、関係会社の在庫管理システムの不備により、審査がストップした事例もあったようです。従いまして、遅くても直前前期に入ってからの子会社の買収、設立については慎重に行うことが望ましいと考えます。
なお、上述の総合生活企業においては、子会社化後にJ-SOXの整備を進めていたものの、中々親展しない中で不正が発覚するという事態になりました。デューデリ段階から疑義がありましたので、買収を検討する場合には、デューデリ段階からシナジー効果の他、内部管理体制やカルチャーマッチングも考慮して慎重に進めることが必要と考えます。
通常、ベンチャー企業においては上場準備段階で子会社を有しているケースは多くないと考えられます。上場審査において、子会社を有していることをもってネガティブな要因になることはありませんが、申請書類の作成準備のための作業量が増加したり、経営管理体制の確認に時間を要したり、会計監査の工数が増加したり、検討の論点が増加したりすることが予想されます。また、管理体制の不備を指摘されるリスクが高くなることも考えられます。企業成長の戦略の一環として、子会社を設立したり買収したりすることは必要な戦略ではありますが上場準備との兼ね合いから時期や方法については慎重に検討することが望まれます。
一方、すでに子会社を有している状態で上場準備を進める場合には、3.で記載した論点に基づいて、資本関係も踏まえて早めに整備に着手することが必要と考えます。