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東京証券取引所(以下、東証)の上場審査においては、企業活動の前提となるビジネスモデル、事業環境、リスク要因等について、慎重に審査が進められます。また、これらのファクターを考慮した事業計画が策定され、その進捗状況についても、審査が行われます。ここでは、これらについての上場審査上、留意すべき事項についてご説明いたします。
東証本則市場の上場審査においては、「上場審査等に関するガイドライン」にそって、以下の項目について審査が行われます。
一方、東証マザーズ(グロース)市場においては、「高い成長可能性」が重要な審査項目となることから、上記1~3のについては、マザーズ(グロース)の「上場審査等に関するガイドライン」の記載はありませんが、事業計画を確認する際には①を前提に審査されるものと考えられます。今回は、1について、説明します。
事業計画については、市場環境、競合動向、法的規制等の外部経営環境を踏まえ、足元の販売・仕入状況や今後の事業戦略等が事業計画に適切に反映されているか否かについて確認が行われます。また、事業計画は損益計画だけでなく、人員計画・投資計画・資金計画との整合性についても確認されます。事業計画の策定プロセスが一部の部署で独断的な努力目標として策定されていないかどうか、積上げ方式で策定されているかどうかについて、確認が行われます。
2014年12月に直接東証1部に上場した株式会社gumi(以下、gumi)は、上場時に通期の業績予想を黒字で開示していたものの、上場後3ヶ月で大幅な赤字に下方修正を行いました。その前後で株式会社フルッタフルッタや株式会社ジャパンディスプレイなど上場後の下方修正が相次いだことも背景として、より事業計画に対する審査が厳格化されました。さらには、上場時に開示する業績予想について、根拠となる前提条件等(「●年●月期業績予想の前提」として開示)の開示を具体的かつ詳細に記載するよう求められることとなりました。gumi以降の審査のおいては、特に、上場申請期の業績予想の達成可能性について、単に財務会計上の数字の進捗だけでなく、KPIの達成可能性等についても確認されるものと考えられます。例えば、季節変動がある会社、ゲーム会社等のコンテンツヒットが前提となっている会社等は、期末近くまで業績を確認されるケースも考えられます。
上述のとおり、事業計画の蓋然性(達成可能性)は重要な審査項目ですが、その管理体制についても確認が行われます。予算管理規程を作成し、以下のように、予算体系・最高責任者・総括責任者・管理部署・予算編成手続・予算修正手続・予算統制方法を規定し、規定どおりに策定されているか否かの確認が行われます。
冒頭で記載した通り、東証マザーズ(グロース)市場に上場申請する場合には、高い成長可能性が必要となります。上場審査の流れとしては、上場申請の直前に主幹事証券会社が東証に成長可能性に関する説明をしますが、上場準備会社は、その前提となるような客観的なデータ等を準備する必要があります。
一般的には、上場準備会社においては、申請直前前期くらいから中期経営計画を策定していきますが、現状のビジネスだけを前提としていたり、上記に関する客観的なデータが乏しかったりするケースが多いと思われます。したがいまして、主幹事証券会社のコンサルティングが入るタイミング(申請直前期の開始の前後)位を目途にマーケットや差別化要因、コア・コンピタンス等の成長要因を調査・整理していることが重要となります。
なお、2022年4月4日を目途に新しい市場区分となり、基本的に、マザーズ市場はグロース市場に移行されます。グロース市場における上場時に開示する「事業計画及び成長可能性に関する事項」(nlsgeu000005b3jc.pdf (jpx.co.jp))では、以下の項目を記載し、かつ上場後も事業年度経過後3ヶ月以内に進捗状況を反映した最新版を開示する必要がありますので、留意が必要です。現在のマザーズ市場の説明資料を踏襲したものではありますが、これらを意識した事業計画の策定とビジネス展開がより重要になってくるものと考えます。
なお、上場の際の公募・売り出しにおける公募価格は、通常Comps(Comparable peer company multiple method。評価対象企業と類似する上場企業の市場株価を基に算出したマルチプルを適用して企業価値を算出する方法)に基づく 予想PERを参考に、非流動性ディスカウントを考慮して、ロードショー、ブックビルディングを通じて決定されます。したがって、どのような上場企業を類似会社とするかが重要であることも踏まえて、類似企業との相違を整理し、サービスの差別化を図っていくことが重要となります。成長可能性は、企業全体としての成長性を指しますが、特に複数のサービスを展開している場合には、Compsに寄せていくための実績(売上・利益)の創出が必要です。「当社には類似企業がない」とか、例えばAIを扱っている企業のPERの高い企業をCompsに採用したいと思われる経営者の方がいらっしゃるかもしれませんが、主幹事証券会社と早い段階でディスカッションして、方向性を固める必要があります。
その他収益性に関して、上場審査上、論点になりうる項目をご説明します。
以上、上場準備における企業の収益性について、ご説明させて頂きました。事業計画について、CFOだけで策定することには限界がありますので、経営者やビジネス側も巻き込んで、自社のビジネスモデルを整理していくことが必要と考えます。